
顧客体験価値向上のカギは「ストーリーテリング」〜感情に響くブランドづくり〜
テレビCMを見て、思わず涙してしまった。あるいは、SNSで誰かが紹介していた投稿に心を動かされて、気づけば商品を購入していた。そんな経験を持つ方は少なくないのではないでしょうか。近年、私たちの購買行動において「何を買うか」「どこで買うか」といった機能的な比較だけでなく、「なぜそのブランドに惹かれたのか」という感情的な要因が、重要な意思決定の要素となりつつあります。
このような消費者心理の変化を受け、マーケティングやブランディングの現場では「顧客体験価値(Customer Experience Value)」を高めることが重要視されています。顧客体験価値とは、単なる商品そのものの価値にとどまらず、購入前後の体験やブランドとの関係性、社会的な文脈までを含んだ、総合的な価値のことを指します。
こうした顧客の感情に訴えかけるマーケティング手法のことをエモーショナルマーケティングといいますが、その中でも特に注目されているのが、「ストーリーテリング」の力です。これは、情報を伝えるのではなく、物語として顧客に届けることで、感情に訴えかける体験を生み出すものです。今回は、そのストーリーテリングがもたらす価値と、実際の活用事例についてご紹介していきます。
なぜストーリーテリングが顧客体験価値を高めるのか
人は物語に触れることで記憶が強く定着し、感情が動かされます。ある研究※でも、ストーリーが脳に与える影響の大きさが示されています。事実をただ並べるよりも、背景や物語を通じて伝えるほうが、長く印象に残ります。
※参考:https://womensleadership.stanford.edu/node/796/harnessing-power-stories
単に「この製品は高性能です」「価格が安いです」と伝えるよりも、「この製品が生まれた背景には、ある家族のエピソードがあります」といった物語が語られた方が、聞き手の心には強く残ります。つまり、ストーリーは情報を記憶に残る形に“変換”する力を持っているのです。
また、企業が自社の理念や創業者の思い、社会課題への取り組みといった背景を、ストーリーとして発信していくことで、顧客との間に共感が芽生えます。例えば、あるコーヒーブランドが地元の農家と協力して栽培したコーヒー豆をフェアトレードで届けるという話には、単なる「飲み物以上」の意味が宿ります。
ストーリーテリングは、商品やサービスの単なる「スペック」や「機能説明」から一歩踏み込み、顧客が「自分ごと」として受け止める体験へと昇華させてくれるのです。
ストーリーテリングによるブランディング成功事例
ストーリーテリングにより、ブランド価値を高めることに成功している事例を紹介します。
■Patagonia(パタゴニア)――理念を貫くブランドストーリー
アウトドアブランドのパタゴニアは、「地球を救うためにビジネスをする」という理念を掲げ、環境保護活動と事業を一体化させています。
中でも2011年の広告「Don't Buy This Jacket」は、「製品を長く使い、消費を減らす」という価値観を「買わないでほしい」と呼びかける形で発信しました。この一見逆説的なメッセージが共感を呼び、結果的にブランドへのロイヤリティ向上に繋がっています。
■サントリー「BOSS」――30年間続く“働く男”の物語
サントリーの缶コーヒー「BOSS」は、長年にわたり「働く男」をテーマにしたCMを展開。中でも、2006年からスタートした「宇宙人ジョーンズ」シリーズは、さまざまな職場を舞台に人々の奮闘を描くもので、多くの共感を集めています。
「宇宙人ジョーンズ」シリーズのCMは、短い時間でありながら映画のような世界観を提供しており、視聴者は自らの経験と重ねながら、BOSSを手に取ることで物語に加わるような一体感を味わえます。
■シャープ「beauté A」――思わずキュン!マンガで伝えるブランドの雰囲気
「広告色をできるだけ抑えた広告マンガ」として、インスタグラムで人気の漫画家とコラボ。同社の展開する美容家電シリーズ「beauté A(ボーテアー)」の認知拡大のために、インスタグラムのアカウントで全4回のオリジナルマンガを連載しました。
マンガは、製品ターゲットに合わせた20代後半の女性が主人公のオリジナル恋愛マンガです。マンガ内に製品は登場させていませんが、主力商品であるドライヤーを彷彿とさせるシーンを盛り込みました。
掲載後、インプレッション・エンゲージメント・フォロワー数がどれも想定の倍以上の数値となり、投稿にはマンガそのものに関するものだけでなく「商品が気になる」「買おうと思っていた」などのコメントがつきました。
感情に響くブランド体験の設計ポイント
ここまで読んで、顧客体験価値を向上させる上でストーリーテリングが重要であることはお分かりいただけたかと思います。それでは、ストーリーテリングを実現するためには具体的にどんなことを実践すればよいのでしょうか。
①一貫性のあるブランドストーリーの構築
ブランドが持つ世界観や価値観は、一貫性を持って顧客に届けることが不可欠です。ロゴ・パッケージ・WEBサイト・広告・店舗での接客応対など、あらゆる接点で伝えるストーリーが統一されていなければ、顧客は迷いや不信感を抱くリスクが高まります。
ストーリーテリングは単なる演出ではなく、ブランドの“人格”として確立させ、長期的に育てていく必要があります。
②タッチポイントごとの「感情設計」
顧客体験は、購入前から購入後までの全ての接点で構成されます。そのため、それぞれのフェーズで、どんな感情を引き出すかを明確に設計することが大切です。
例えば、WEBサイトでは「ワクワク」や「安心感」、カスタマーサポートでは「信頼」や「感謝」を与えるように設計すると、ブランド体験の満足度が高まります。
③顧客のストーリーに寄り添う視点
企業が語るストーリーだけでなく、「顧客が体験するストーリー」に寄り添う視点も重要です。例えば、家電メーカーが子育て世代の悩みに共感するストーリーを発信すれば、製品の便利さや時短効果は単なる機能を超え、感情的な価値へと昇華されます。
「顧客の人生の物語に、どう寄り添えるか?」──この視点が、現代のブランドに求められている感性です。
記憶に残るのは、「情報」ではなく「物語」
情報過多の時代において、人々の心に残るのは機能や価格ではなく、感情を動かす物語です。顧客体験価値を高めるには、便利さや高性能といった訴求以上に、「このブランドを応援したい」「この商品を選ぶことで自分の気持ちが満たされる」といった情緒的価値の提供が欠かせません。
ストーリーテリングは、そうした感情の接点を生み出す最も強力な方法です。そしてこれは、マーケティングに限らず、経営や商品開発、社内教育といった企業全体に関わる取り組みへとつながっていきます。
トレンド・プロでは、企業の理念や商品の背景を日本人にとってなじみ深い「マンガ」という形でストーリー化し、顧客に「感情で伝える」支援を行っています。あなたのブランドも、物語の力を味方に、顧客体験価値の向上を一緒に実現しませんか?
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